本年は、東洋大学の創立者であり、明治期の日本の近代化に哲学教育の側面から多大な影響を与えた井上円了先生(1858 ~1919)の生誕160 周年・100 回忌にあたります。これを記念して、東洋大学情報連携学部(INIAD)では、井上円了先生が設計した哲学堂公園( 東京・中野区)を、最新のコンピュータ技術を使って演出する展示会を開催することになりました。
東洋大学にINIAD を開学するにあたり、開祖の井上円了先生についていろいろ学びました。私なりの理解で、先生の「哲学」と今でいう「科学」が非常に近しいものであることを知り、自分で考えることを重視するその科学的姿勢に感銘しました。
人工知能をはじめとする最新のコンピュータ技術が、日本の社会のカタチを根本から変え始めた現代は、ある意味「西洋合理主義」が伝統的日本に押し寄せた明治にも次ぐ激動の時代です。井上先生の「自分で考える力を持て」という教えは、時を越えて現代を生きるための生きる力にもつながります。
井上先生を語るときクローズアップされることが多い、先生が始められた「妖怪学」も、狐狸妖怪を信じる明治の人々に「自分で考えること」を教えるにあたり、まず興味を引くため―いわば教育のきっかけ。ただ、そういう合理性だけでなく、妖怪グッズのコレクションに発展させたところは、先生の人間味でもあります。
今回の開催にあたって、哲学堂公園について先生の書かれた書をはじめいろいろな文献にあたりました。そこからわかったことは、「哲学堂」が歩きながら哲学がわかる「教育装置」として緻密に設計された空間だということです。当然「演出装置」として妖怪グッズも公園内に多数配置されていました。
しかし、残念なことに当時の「演出装置」は多くが失われたり、他へ移されたり、劣化したりして演出意図を果たせない状態になっています。たとえば哲学堂公園の道は最後に「絶対城」につながります。「絶対城」は先生が唱えた「あらゆる知識の集まる書庫」という概念を形にした図書館でした。ゴールに「答え」ではなく、「自ら学び考えよ」として書庫を置き、突き放すという洒落た演出ですが、今の「絶対城」にはその21,000冊の蔵書はありません。
そこで、今回の展示では、単なる過去の写真の展示から一歩踏み出して、先生がこの公園に込めた設計意図を解題する―それを先生が今生きておられたら、趣味と実益を兼ねて喜んでお使いになったであろう最新のコンピュータ技術を駆使して演出するという設計になっています。事実、井上先生の「絶対城」に今最も近づいているのはインターネットの「向こう側」だと思います。紙ベースでは「あらゆる知識の集まる書庫」という概念の実現は不可能ですから、井上先生がインターネットを知られたらどんなに喜ばれたかとも思います。そして、その考え方は「紙を使わないで教育する」という制約を自ら楽しむというINIAD 流でもあります。
なお、今回の展示にあたっては、実物をベースに創造的なカットを切り取るという作風を確立された写真家 佐藤倫子氏にお願いし、今の哲学堂公園を切り取っていただきました。その新旧の写真に、さらに過去の写真を人工知能により高解像度化や着色を行ったINIAD 流の写真を加え、いろいろな工夫で演出をしました。哲学堂公園と比較すれば小さな空間ですが、楽しんでいただければ幸いです。
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長
坂村 健
INIAD(イニアド:東洋大学情報連携学部、学部長:坂村 健)は、『哲学ワンダーランド⸺井上円了の不思議 な世界』展を、2018 年6 月一杯、9 日からの土曜日ごとに赤羽台INIAD キャンパスで公開します。 本年は、東洋大学の創立者であり、明治期の日本の近代化に哲学教育の側面から多大な影響を与え た井上円了先生(1858 ~1919)の生誕160周年・100回忌にあたります。これを記念して、INIADでは、 井上円了先生が、歩きながら哲学が分かる教育装置として緻密に設計された哲学堂公園について、 この公園に込められた設計意図を解題するとともに、それを最新のコンピュータ技術を駆使して演出 する公開展を開催することといたしました。
展示会名 | 『哲学ワンダーランド―井上円了の不思議な世界―』 |
場所 | 赤羽台キャンパス INIAD-HUB1 1階INIADホール ホワイエ https://www.iniad.org/access/ |
日時 | 2018年年6月9日(土)、16日(土)、23日(土)、30日(土)13:00~17:00(16:30受付終了) |
入場料 | 事前申込は不要です |
主催 | INIAD(東洋大学情報連携学部) |
共催 | INIAD cHUB(学術実業連携機構) |
URL | https://enryo-wonderland.iniad.org/ |
東洋大学情報連携学部(通称:INIAD)は、コンピュータ・サイエンスを軸に、様々な人々と連携しながら新しいサービス、新しいモノを作り出せる人材を育てる学部です。エンジニアリング、デザイン、ビジネス、シビルシステムの4 つのコースを選ぶことができますが、1 年次は全員がプログラミングをはじめとしたコンピュータ・サイエンスの基礎とコミュニケーションスキルを学び、3 年次にはコース横断でのチーム実習を通じて、連携力を身につけます。
井上円了先生は、1858 年(安政5 年)に生まれ、29 歳の1887 年(明治20 年)に東洋大学の前身となる「哲学館」を創設。建学の精神は、「諸学の基礎は哲学にあり」。そして井上先生は、「妖怪学」の創設者としても知られています。
文明開化の影響で激動の時代だった明治の日本で、妖怪とか幽霊とか火の玉といった怪奇現象が大流行りになりました。そのとき、こうした現象の原理を解明し、公表することで社会不安を治めようとしたのが井上先生で、そのことから「妖怪博士」と呼ばれることもあります。
この時代の哲学は現代の科学の原点でもあり、井上先生の怪奇現象の解明も、科学的な分析で大量な調査やデータ収集をもとに分析を行って仮説を考えそれを実験で確かめといったものです。また、同時にドクロの筆立てや、幽霊の彫刻など多くの怪奇コレクションを集めるなどの怪奇マニアという面も持つなど面白い方だったとのことです。
先生の近代哲学の姿勢は徹底していて、先験的な真理を鵜呑みにせず、まず自分で考えることが大事だと説きました。しかし、その考え方が当時の政府に危険視されたといった不幸な事件があり、哲学館を大学化する途上で、大学教育からは身を引かれましたが、明治の日本に必要なのは一人ひとりが自分で考える精神を育む「心の近代化」だと訴え、生涯にわたってそのための活動を続けました。
その生涯教育のための場として、井上先生が作ったのが東京都中野区にある哲学堂です。一般の人の関心を呼ぶため、広い公園敷地内には井上先生の怪奇コレクションも多く配置されていたといいます。また、自分の考えを広めるために、14 年間に5400 回も講演を行いました。そして満州で講演中に倒れて帰らぬ人になったのは、1919 年(大正8 年)61歳のときでした。
今回の展示を行うにあたり、井上円了研究センター巡回写真展「哲学堂」をご紹介くださり、きっかけを作っていただいた、井上円了研究センター 柴田 隆行氏、研究推進課 飯村 桂子氏 に特に感謝申し上げます。
能島 征二(井上円了像・彫刻家)
佐藤 倫子(写真家)
植竹 薫・千澤 尚子(哲学堂公園管理事務所)
北田 建二(井上円了記念博物館)
伊藤 藍・松本 友依子(学長事務課)
藤木 礼子・高橋 紀之(図書事務課)
敬称略
坂村 健(プロジェクトリーダー)・山田 純(プロジェクトサブリーダー)
神尾 真人・矢代 武嗣・淺野 智之・金 智恩・渡邊 徹志・別所 正博(技術チーム)
本多 孝之・晴山 泰臣・青木 賢治・関根 章裕・島田 由美子(展示チーム)
渥美 元康・松島 功樹・福野 翔一・若林 大輔・米村 泰祐・林 幸宏・高村 祐加(赤羽台事務課)
東洋大学情報連携学部事務課
電話:03-5924-2600
E-mail:contact@iniad.org